2015年06月

は一つ二つではないため、すべて確認していくには手が掛かるのだろう。悠人はすっと表情を引き締めて首肯すると、再び大地とともに書斎を出て行こうとする。剛三はその背中を見据えながら、執務机の上でゆったりと両手を組み合わせて顎を引いた。
「大地、調べるのは構わんが、無断で行動を起こすなよ」
「わかっています」
 威圧的な物言いをものともせず、大地はにっこりと満面の笑みを浮かべて振り向いた。剛三はピクリと眉を動かして疑わしげな眼差しを送る。彼だけでなく、この場の誰もが漠然とした不安を感じたに違いない。けれど、はっきりと承諾の返事をしている以上、今はそれを信じるしかないだろうと思った。

「じいさん、俺、寝てきていいか? このところ徹夜続きだったし」
 大地と悠人が出ていって扉が閉まるとすぐに、篤史は執務机の方に振り返ってそう尋ねた。
 確かに、彼はこのところ何かと忙しそうにしていた。機器やソフトウェアを作成したり、あちらこちらをハッキングしたり、侵入計画を立てて準備を整えたりで、寝る時間もあまり取れていなかったように思う。憔悴ぎみの顔からも睡眠不足とが窺えた。
「構わん。無理をさせてすまなかったな。私も少し休ませてもらおう」
 剛三はそう言い、大きく肩を上下させながら息をついた。彼の場合は橘財閥の方にも心を砕かねばならず、会長としての責任もあり、精神力の消耗は並大抵のものではないだろう。年齢的なことから考えても相当きついはずだ。それでも露骨に疲れた様子を見せることなく、しっかりとした足取りで書斎を後にする。
 篤史も「じゃあな」と軽く手を挙げて、それに続いた。
 打ち合わせ机に残された誠一、澪、遥、武蔵の四人は、どうすべきか探るように困惑した視線を送り合う。このメンバーなら自分が主導するしかないのかもしれない——誠一はそう思いながらも、重い空気に飲まれて口を開くことが出来なかった。

 遥の提案で、四人は書斎から澪の部屋に移動した。
 澪は疲れたようにふらりとベッドに倒れ込むと、うつぶせ

柄のチュニックワンピースに目をつけた。ビニール袋から取り出して全体を眺めながら、満足げに何度も頷いている。
 澪はベッドに腰掛けたまま、目を伏せた。
「すみません……あの、私、持ち合わせがあんまりなくて……」
「気にしなくていいのよ。あとで悠人さんにしっかり請求するから」
 涼風は悪戯っぽくそう言って魅惑的にウィンクする。本当に請求するつもりなのかはわからないが、そう言われるともう何も言えなくなってしまう。どちらにしても、澪が負担を感じることのないようにという気遣いなのだろう。
「これでいいかしら」
 澪が考え込んでいる間に、涼風は選んだ衣装をベッドの上に広げていた。先ほどのチュニックワンピースとレギンス、それに下着の上下までもが置いてある。どれも自分では選ばないようなデザインだが、決して嫌いではない。はい、と素直に頷いて立ち上がった。
「着替え、手伝いましょうか?」
「いえ、ひとりで大丈夫です」
 手の怪我を気遣ってくれたのだろうが、指は普通に問題はない。それに——。
「あの……着替え、見られたくないので……その……」
 どう伝えればいいのかわからずしどろもどろになるが、涼風は何かを察してくれたようで、ただ「わかったわ」とだけ答えてベッドから離れた。背中を向けてしゃがみ、紙袋から出した他の服や荷物を片付け始める。
 澪は安堵の息をつき、涼風に背を向けてジャージを脱いだ。
 胸元にも、腕にも、内腿にも、無数の赤い痣のようなものが残っている。武蔵との情事のあとにも同じような痣がいくつかついていたが、そのときはまだどういうものなのかわかっていなかった。しかし、今はもう理解している。あれだけしつこくやられたのだから気付かないわけがない。思わずそのときの感触がリアルによみがえり、ぞわりと肌が粟立った。
「私のこと、どこまで聞いてます?」
 背を向けたまま下着に手を伸ばしてそう尋ねると、涼風は少しの間をおいてから答える。
「家に置いておけない事情があって、しばらく知人のところに預けることになった、とだけ。

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